ぐるなBB

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ラグビーワールドカップ2019『20191102 決勝 イングランド対南アフリカ』

ラグビーワールドカップ2019決勝、現在世界最強は完全完璧のイングランドか、最強フィジカルの南アフリカか。

前回大会、ホスト国ながら予選敗退のイングランドと、日本に歴史的敗戦を喫した南アフリカ、共に屈辱的な経験を糧に、力を蓄え、整え、磨いてきた。

その努力の結晶が、この80分間に注がれる。

 

イングランドは準決勝で優勝候補最有力であったニュージーランドの多重攻撃に対し、DFラインの粗密さを大胆にし、内側での接点では執拗に絡んで球出しの遅延とノットリリースザボールを狙い、外側での接点では人数をかけてカウンターラックを徹底し、完全に封じ込んでミスによる1トライに抑え込んだ。

南アフリカは準決勝で6ネーションズ2019グランドスラムウェールズと対戦し、素早い攻撃にはFWと9番・デクラークがスピードとパワーのプレッシャーをかけ、得意のキック合戦にも対抗し、そしてセットプレーで圧倒的な力の差を見せつけ、キック1本分の差で勝利した。

DFの隙の無さからイングランド優勢かとも感じたが、南アフリカのセットプレーとプレッシャーも脅威であり、本当にどちらが勝つか分からない、予想が出来ない試合前であった。

 

試合開始早々、南アフリカペナルティキックを得るが、名手10番・ポラードがまさかの失敗、しかしイングランドパスミスや息が合ってプレーが目立ち、互いに緊張の色が見え隠れする。

そしてイングランドはテクニックに長ける3番・シンクラーが接触時に脳しんとうを受傷、辛うじて自力で立ち上がるも、早々に18番・ダンと交代となり、イングランド陣営に暗雲が立ち込める。

その影響があったかどうかは不明だが、スクラムでは南アフリカによる日本顔負けの低く姿勢と重い押しでイングランドスクラムを押し除け、イリーガルホイールやコラプシングのペナルティを得ては、ポラードが修正したキックで得点を重ねていく。

 

南アフリカは重量と強いフィジカルに富み、FWの縦突破攻撃は大会最強と呼んでも良いが、この試合では9番・デクラークや10番・ポラードが巧みな判断と高速ロングパスで攻撃位置を変え、イングランドDFの穴を突いてはゲインを試みる。

特に12番・デアレンディ、13番・アムと言ったCTB陣や、4番・エツベス、8番・フェルミューレンをはじめとしたFWのクラッシュは確実にゲインラインを超えていく。

しかし、イングランドもトライは許さず、ターンオーバーをしては陣地を戻し、南アフリカのゴールに1番・マコヴニポラ、8番・ビリーヴニポラ、13番・トゥイランギと言ったパワフルランナーを突っ込ませるも、南アフリカDFが行き手を阻み、トライは生まれない。

 

ハイボールパントの争奪は互いに安定感はあったが、僅かな差で南アフリカが奪取していた印象がある。

特に10番・ポラード、11番・マピンピは球際でのテクニックが光り、攻撃権を確保すると、強力な突進や15番・ルルーの巧みなランと空いたスペースへのキックが功を奏し、全体的に南アフリカが攻め込む時間が多くなっていく。

イングランドもブレイクダウンでプレッシャーをかけ、4番・イトジェや6番・トムの働きから、南アフリカのゲートオフサイド等のペナルティを得て、12番・ファレルがキックを決め、前半を6対12で折り返した。

 

南アフリカはこれが7戦目、イングランドも6戦目であり、選手は皆疲労困憊である。

南アフリカの2番・ムボナンビは脳しんとう、5番・デヤハーも前半に左肩を負傷して途中交代、その他の選手も痛みや怪我を抱え、満身創痍でグラウンドに立っている。

その点、通常リザーブにはFW5人、BK3人を入れるが、南アフリカは日本戦同様にFWを6人、BKは22番・ヤンチースと23番・ステインのみと、FWの動きで試合が決まる事を表し、後半3分ほどで両PRを変えていった。

 

後半に入っても先にスコアしたのは南アフリカであり、変わったばかりの両PRがスクラムを押し込んでペナルティを得て、ポラードがスマートに決めた。

なかなか攻撃のテンポが上がらないイングランドは10番・フォードに変えて22番・スレイドを入れ、スタンドオフをファレルに変えるも、大きな変化は生まれず、互いにキックを決めて12対18と点差は縮まらない。

それでも14番・ワトソンが右ライン際を突破したり、南アフリカのライン際の攻撃をニュージーランド戦さながらの手厚いDFで外に押し出して攻め込ませない等、随所に実力や手堅さを見せていた。

 

試合が大きく動いたのは後半26分、南アフリカが左サイドへボールを動かすと、13番・アムから16番・マークス、そして11番・マピンピに素早くパスを回し、左サイドを駆け上がっては裏側にパント、ボールを掴んだアムはすかさずマピンピに戻し、無人のゴールへ悠々とグラウンディング、今大会6トライ目を挙げた。

そして後半33分、イングランドはボールを回すも南アフリカのDFラインは崩れず、22番・スレイドを8番・フェルミューレンと16番・マークスが日本顔負けのダブルタックル、ボールが溢れるとアムが拾い、7番・デュトイに渡すと右外展開、待ち受けた14番・コルビが4人に囲まれるが、足を痛めながらも“ポケットロケット”の異名から12番・ファレルを巧みなステップでかわすと、誰にも触られずに滑り込み、試合を決定付けた。

残りの時間もイングランドは攻め込めず、最後はポラードが左脇に大きく蹴り出し、フルタイムのスリーホイッスルが鳴った。

 

最後は12対32、点差以上に緊迫した試合だったが、やはり勝負を分けたのはフィジカル、そしてパスやキック、タックルと言ったラグビースキルであり、自国の強みを出した南アフリカの“自信”であった。

スクラムでの低さ、ラインアウトでの高さ、タックルやクラッシュでの前に出る姿勢、接点には素早く人数をかけ、パスは正確に速く遠く、そこに選手個々の得意なプレーが光り、チームは円熟さを増していったのだ。

イングランドは相手の戦術を研究し、キーとなるプレーヤーやポイントでの攻防からチャンスを得ては、得意とするプレーで効果的にポイントを重ねていったが、南アフリカには僅かに及ばず、エディー・ジョーンズの夢は潰えた。

 

かくして優勝は南アフリカ、準優勝はイングランド、3位はニュージーランドとなり、南アフリカは3度目の優勝となった。

初戦でニュージーランドに敗れ、またイングランドニュージーランドに完勝、戦力図として上位3国は相性の様な物があるかも知れず、また次に闘う時は結果が変わっている事もあるだろう。

RWC2023まであと4年、この瞬間から次に向けての闘いが始まるのである。

 

具体的な数字は定かではないが、日本での開催がどうだったかと言えば、現時点では大成功と胸を張って言えるだろう。

日本の大躍進もあれば、地域住民やファンやサポーターの“オモテナシ”の精神は海外にも認められ、天災の惨さはあれど、日本がとても素晴らしい国である事が周知された。

そしてこれまでのメディアの尽力もあるが、日本国民にも“ラグビーの素晴らしさ”が浸透し、世間の視線は確実に変わって来ており、日本のラグビー界が少し明るくなった様な気がする。

 

ラグビーはとても良いスポーツである、と、これからは私も胸を張って言える。

ワールドカップは終わったが、これからは社会人、大学、高校、そして海外ラグビーがまた始まる。

2015年が発火点、2019年は加速点、そしてこの先にある輝かしい未来に向かい、ボールは後ろ向きでも前進していくのである。