ぐるなBB

宮城県在住であるBBの主観が渦巻く日常観察バラエティ

ラグビーワールドカップ2019『20190928 アイルランド対日本』

予選プールでのホスト国と優勝候補の対戦である。

共に初戦をボーナスポイント込みの白星で飾るが、日本は格下であるロシア相手にミスが目立つ苦しい展開、片やアイルランドは強豪スコットランド相手に素晴らしいパフォーマンスを見せて圧倒した。

試合前の世界ランクは9位と2位、とある調べでは対戦オッズが『アイルランド1.07倍』と、100人が100人アイルランドが勝つと信じてやまなかった。

 

アイルランドのメンバーは、2018年の世界最優秀選手であるセクストンを怪我で欠くものの、FWには前戦でPOM(Player Of the Match:最優秀選手)に輝いた8番・スタンダー、120キャップを誇る2番・ベスト(キャプテン、37歳)をはじめとしたスコットランドと同様の8人を並べ、BKにはタックルに長けるCTB陣と快速スリーバックス、総キャップ数900以上のほぼベストメンバーをぶつけて来た。

対する日本は、セットプレーで拮抗するためにロックにはトンプソンとムーア、フランカーにはパワフルな姫野とテクニシャン・ラブスカフニ、そしてNo.8には前戦を怪我で欠場した怪物・マフィを擁し、BKは9番に流、10番・田村のハーフ団、CTBは前戦同様の中村とラファエレ、スリーバックスにはハイパントへの対応としてトゥポウ、山中、そしてハットトリックを挙げた松島を並べた。

しかし、トゥポウが直前の怪我によりレメキと交代し、リザーブにはなんと全治4週間の肉離れからまだ3週間しか経っていない快速・福岡を入れ、不安が走る中で試合が始まった。

 

試合は、予想だにしない展開だった。

セクストンを欠くアイルランドは、FWを3-3-1に分けてセットし、9番・マレーやセクストンが多数のアタックオプションや巧みなループプレーから相手DFを撹乱するシステムが機能せず、パワフルや突進とDF裏へのパントキックで前進を図る。

しかし、日本のDFは綺麗な隊列が壁となり、時には2本の槍となってボールキャリアーに襲いかかるDFシステムとダブルタックルをみせ、アイルランドの猛攻を止め、キック処理ではエリアの獲得を最優先にし、山中や田村のキックは有効にタッチラインを割った。

 

日本の攻撃はFWがポイントサイドにセットするものの、単発な突進を行う事は無く、アングルを変えて斜めに走り込んだり、外奥にいる田村にパスアウトしてBKへと展開し、数的優位を作り出してアイルランドDFラインの僅かな穴を突いて有効に前進を図り、アイルランドのDFラインはその多彩な攻撃に後手に回った。

その様は、まるで大学黄金時代を飾った帝京大学のアタックシステムに、前年度優勝した明治大学のFWトライアングルシステムを合わせ、DFに的を絞らせない撹乱戦法をやったのけ、ブレイクダウンでは素早いサポートとゲインラインを僅かでも前方に敷き、フラストレーションが溜まったアイルランドFWのオフフィートやノットロールアウェイを誘い、PKを得た。

田村のキックが外れて先制とはならなかったが、アイルランドは確実に違和感を覚え始め、観客は何かに期待をし始めた。

 

しかし、そこで大きく崩れないのがアイルランドであり、少ないチャンスから日本陣営に入り、ペナルティでアドバンテージを得ると外側や裏側へのキックパスを図り、スリーバックスがボールを獲得してトライを重ね、スコアは12対3となっていた。

さらにマフィが肋軟骨を負傷して前半から途中交代となり後半の勝負所で投入予定だったキャプテン・リーチを早くも出さざるを得ず、日本には暗雲が立ち込め、やはりアイルランド優勢かと思われた。

それでも、スコットランド相手に通用したラインアウトモールは日本の網の様なDFで前進を阻まれ、スコットランドを制圧したスクラムが日本に粉砕されるというまさかの展開となり、FWは日本が完全に優位に立ち、敵陣で得たPKを田村が決め、前半を12対9で折り返したのだ。

 

後半は一転、日本ペースでゲームが進み、単調な攻めを繰り返すアイルランドをしっかり受け止め、時には綻びをみせるも、執拗なDFでトライラインは割らせない。

ペナルティで陣地を獲得し、FWからBK、そしてまたFWと15人一体となったアタックで前進を図り、特に6番・姫野のアタックはアイルランドの12番・ファレルを弾き飛ばした。

後半10分には脚がつった山中に変えて福岡を投入し、怪我が完治していない中でのスクランブルだが、アイルランドゴール前スクラムから12番・中村、11番・レメキ、6番・姫野が突進を見せ、最後はラファエレの華麗なタップパスを受けたその福岡が右隅に飛び込み逆転した。

 

ついに追う側となったアイルランドは猛攻をみせ、単調ながらもそのパワフルなフィジカルで怒涛の前進を図るも、日本は田村のPGで12対19と突き放す。

日本ゴールライン目前まで攻め込むが、日本は反則を犯さず耐え忍び、BK展開も奏功せずに少し後退したところ、姫野がブレイクダウンでノットリリースザボールを奪った。

その後もアイルランドは猛攻を仕掛けるが、終盤に足が止まったアイルランドは陣形が崩れ、パスが浮いたところを福岡がインターセプト、痛む脚で懸命に走り、敵陣ゴール前まで持ち込み、ラストワンプレーとなった。

 

日本は最後のワントライを目指して果敢に攻めるが、ハンドリングエラーからアイルランドボールとなり、ボーナスポイントの観点(7点差以内なら敗戦でも1点獲得)から、外に蹴り出してノーサイドとなり、日本は優勝候補筆頭のアイルランドから勝利した。

前回大会、南アフリカを破って“スポーツ史上最大の番狂わせ”と謳われた「ブライトン・ミラクル」以上の番狂わせ、「シズオカ・ショック」を成し遂げたのだ。

世界が日本を強国として位置付け、全勢力を注いで潰しに来る日は近いかも知れない。

 

予選は残り2試合、プールAは日本が勝ち点9、アイルランドが6、サモアが5と続き、アイルランド1強から混戦の模様を呈し、一気に“死のプール”へと変貌を遂げた。

アイルランドは残りの2試合を勝ち点5ずつ取る事を想定し、あとは、サモアスコットランド、日本とで椅子を奪い合うだろう(ロシアは2敗)。

アイルランド相手に攻守共に準備したプレーとパフォーマンスを発揮した日本、残り2試合でどの様な戦、闘い方をするのか、一層目が離せない。